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何もおかしなところはない。いつもどおりの朝。
片桐さんがいないのは、非日常なのだろうか。 弟を小学校まで連れて行き、高校の門を通る。 その日も片桐さんは休みだった。病欠で3日というのはそれほど珍しい話でもない。誰も気にしていない――否、私だけが気にしていた。喫茶店で片桐さんが話した内容を思い起こす。 『弟さんが危ないの。3日後、何人もの人間――いえ、何人もの<私たち>があなたの弟さんを狙って動くの。私にはどうしたら良いのかわからない、でも――伝えずには、いられなかった』 片桐さんは、「人間」を「私たち」と言い直した。論理的に噛み砕けば、片桐さんが人間ではないと判断できる。……人間ではない? いや、どう見ても彼女は人間だ。 では、弟が危ないというのは、どういうことだろう。私と異母兄弟であることが何か関係するのか。あるいは、お義母さんか。 結論にたどり着かない思考はループしたまま、釈然としない一日を過ごした。 明確な異変が起きたのは、放課後、小学校へ弟を迎えに行ってからだ。いや、もっと前から起こっていたのかもしれない。 小学校の門で、いつも通り弟を待っていたのだけれど、なかなか弟はやってこなかった。普段、友達と遊んだりして遅くなるときは、必ず一旦私の元へ来て断りを入れる。そうすれば私も待っているなり先に帰るなりできるのだけれど、今日に限っては全く姿を見せなかった。 しばらく待っていると、弟と親しい同級生を見かけた。彼なら知ってるかもと思い、声をかけてみる。 「え? アイツなら高校生の女の人と帰ったよ。制服着てたからおねーさんかと思った」 ――戦慄。 誰かが、弟を連れて行った。誰が? 片桐さんだろうか。あるいは、彼女の言っていた「私たち」のうちの一人だろうか。 考えるよりに先に走っていた。あてはない。とりあえず一度帰るしかなく、商店街を駆け抜け、自宅の玄関を思い切り開ける。リビングから、お義母さんが険しい顔をして出てきた。お義母さんに、自分より先に弟を連れて行った人がいると説明した。すると、お義母さんはその場に座り込んで、手で顔を多い、震えた。 「お願い……。あの子を、あの子を探して……」 こんなに弱々しい彼女を見るのは初めてかも知れない。 私は「お義母さんも行こう」と、彼女の腕を取る。けれども彼女は立ち上がるつもりさえ見せず、「ごめんなさい、私は行けないの、ごめんなさい……」と繰り返すばかりだった。 義母をそのままにして、私は一人で家を飛び出た。もう、何が何だか判らない。 不安と疑念ばかりで走り出す。すると、家から出て間も無く、体が浮いた様な感覚を覚える。数秒遅れて、後ろから組み伏せられたのだと理解する。 「2037番のヤツ、生意気に結界なんか張りやがって……。安心しなお嬢ちゃん、俺は家の中にゃあ手ぇ出せねぇよ」 私のすぐ上から、知らない男の声が聞こえた。言ってる内容は、ほとんど理解できない。 「それにしても、ヤツの息子はどこへ行った……? お嬢ちゃんの義理の弟にあたるはずだが」 どうやら彼は弟のことを探しているらしい。しかしして残念ながら、それは私もである。 私は、何も知らない。 「何も知らないってこたぁないでしょうよ。何も知らなかったら、あんなにうろたえながら走りはしないよ。何でもいい。何か知ってることを言ってくれるかな」 「知ってても、教えない……」 完全に極められながら、私は言葉で反抗した。その瞬間、肘が軋む。私の喉の奥から呻くような悲鳴が漏れる。 「お嬢ちゃんは逆らってもあまり特じゃないよ? やりたかぁないけど、結界をブチ破るのも不可能じゃないんだ。それとも、義理の母親なんてどうなってもいってかい?」 彼の言ってることは理解しにくいが、お義母さんのことで脅されているのだろう。私は未だ軽い混乱の中、小学校で私と同じ制服の誰かが弟を連れて行ったことを言った。 「まさか……、リギアのやつ、独り占めする気か!」 男はそう叫ぶとともに、何処かへ消えて行った。急に体が軽くなる。私は弟を探して、再び走り出す。 暗い、けれど明るい。そんな満月の夜。 ///////////////////////////////////// ジャンル変わっちゃってる感ですね。 もうじき非簡潔に完結予定。 |
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「……いえ、ごめんなさい。突然こんなことを言って」
俯いて、片桐さんはそう謝った。 私には訳がわからない。彼女の言ったことは的を射ている。私の母は私が幼いころに他界し、父は数年後に再婚した。弟はその義母の子供だ。 「でも、どうしてもあなたに言っておかなければならないことがあるの」 片桐さんは切羽詰った様子で私に切り出す。私と片桐さんの前に出されているコーヒーには、まったく手がつけられていない。 「弟さんが危ないの。3日後、何人もの人間――いえ、何人もの<私たち>があなたの弟さんを狙って動くの。私にはどうしたら良いのかわからない、でも――伝えずには、いられなかった」 要領を得ない。そんな感情が私の顔に出ていたのだろうか、片桐さんはまた俯いて「ごめんなさい」と謝った。 その日は、そのまま彼女と別れた。 家へ帰ると、弟はテレビゲームをしていた。 「ねえ、あんた人間だよね?」 片桐さんから言われたことを考えていて、何気なく聞いてみた。意味不明な質問をされて、弟は数瞬間を空けてから、 「ふははー。我こそは魔界の王、メシア様である」 そんな、意味不明な答えを返してくる。いつも通りの弟のようだ。そもそもメシアは救世主の意だ。 次の日、商店街に片桐さんはいなかった。昨日会っただけなので、弟は気にしていないらしい。黒猫と遊ぼうと道を急いでいる。 いつものように弟を学校まで引きずって行き、学校へ着く。教室にもやはり、片桐さんの姿はなかった。片桐さんが病欠だと知ったのは、ホームルームでの担任の報告からだった。 片桐さんと喫茶店で話をしてから3日目。片桐さんに言われたことを全て鵜呑みにしているわけではないけれど、朝から余り落ち着けず、いつもより1時間早く起床した。リビングへ行くと、キッチンでお義母さんが朝食とお弁当の準備をしていた。お義母さんは私に気づくと、作業を止めて私を呼んだ。 お義母さんは、「あの子のお迎え、今日もよろしくね」と、それだけを時間をかけて言って、朝ごはんの準備を続けた。 浮ついた胸騒ぎは、収まりそうにはなかった。 |
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次の日の朝、弟と商店街に着くと片桐さんが待っていた。待たせてごめんね、待ってないわ、とありがちなやりとりをして、3人で学校へ向かう。
弟はそわそわと落ち着かない様子で、時折片桐さんを見ている。片桐さんもそれに気がついた様子で、 「はじめまして。最近こっちに越してきたばっかりだけど、よろしくね」 と、律儀にも弟に挨拶をしてくれた。 「お姉ちゃんの友達?」 弟は私に訊いてくる。 「そうだよ、昨日転校してきたの」 「昨日初めて会ったのに、友達なの?」 「ダメ?」 「……変なの」 そんなやりとりをしている私と弟を、微笑ましいといった顔で、片桐さんが見ていた。 商店街を学校側に抜けて少し歩くと、いつも通りににゃあ、と泣き声がした。そしていつも通りに、弟が走って行く。 あの黒猫、ほとんど毎朝会うの。私が片桐さんにそう言うと、片桐さんはゆっくりと頷いて、 「ああ、なるほど……」 そう言った。 駄々をこねる弟を小学校まで引きずって、そのまま高校まで歩いていく。片桐さんと早めに待ち合わせしてあったおかげで、今日はなかなか余裕がある。 校門を過ぎると、片桐さんは私に話しかけてきた。 「ねえ、ふたりで話がしたいのだけれど」 今じゃダメなの、と訊くと、片桐さんは少し時間がかかるかもしれないと言った。じゃあ放課後にでもと提案すると、片桐さんはそれを了承して玄関へと向かって行った。 昼休み、私が片桐さんを昼食に誘おうとすると、後ろの席には既にいなかった。ほかの友達と先に食べて待っていたけれど、結局片桐さんが帰ってきたのは昼休みも終わりに近い時間だった。 どこへ行っていたのかたずねると、片桐さんは校内探索だと答えた。 「片桐さん、大丈夫!?」 私が弁当箱を片付けていると、一緒に昼食を採っていた友達が、慌てたように言った。私が反応して片桐さんをみると、口元に血が付いていた。 片桐さんは口元を手の甲で拭って、その拭った手を注視した。 「ああ、大丈夫よ、驚かせてごめんね」 皆はあまり納得しない様子だったけれど、片桐さんが何度も大丈夫だと言う上に彼女自身に異変が見られないので、その場は何事もなかったかのように収まった。 放課後、私と片桐さんは商店街にある小さな喫茶店に入っていた。 「で、話って?」 私がそう切り出すと、片桐さんは少し躊躇った様子を見せてから、言った。 「あなたと弟さんって、――異母姉弟、でしょう?」 ///////////////////////////////////////////// 結構長くなっちゃったりするかもっ! |
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久々の更新です。短い小説を書いてみます。
/////////////////////////////////////// にゃあ。 いつも通り、その黒猫はよく鳴いている。弟はそれを見つけると、駆け足で近づいていく。人間に慣れているのか、その黒猫に逃げる様子は見られなかった。 早くしないと、学校に遅れるよ。私は弟を諭す。 「もうちょっとだけ」 弟は駄々をこねて、黒猫の喉をくすぐる。ごろごろと音を立てて、黒猫は喜んでいた。 小学校まで、家からまだ半ばといったところだ。ここで時間を食っていたら、本当に遅刻しかねない。その上私は、弟を小学校に送ったら、そのまま高校まで行かなければならないのだ。 朝、時折出会うこの黒猫は、私の時間を着実に食んでいる。憎らしくもなるが、可愛いので許せてしまうのが猫なのだろうか。 私はやや弟を引きずり気味で、初夏の朝日の下を歩いていく。 教室に着くと、すでにホームルームは始まっていた。私は先生に形だけ軽く詫びて、自分の席へと向かう。と、私の席であるはずのそこには、見知らぬ女子生徒が座っていた。――いや、窓際最後尾であった私の席のさらに後ろに、新しく机がひとつ、追加されているのである。 「ああ、転校生の片桐だ。よろしくしてやってくれ」 先生が私にそう言う。片桐さんは私を見て、よろくしと微笑んだ。長い黒髪でやや釣り目の彼女は、笑うと綺麗だった。 最後尾だったその後ろに座る片桐さんには、隣の席というものがない。必然、近い席は私だけだ。彼女も私もあまり人見知りしないタチのようで、休み時間には自然と話をした。 どうやら別の県から越してきたらしく、引越し先は私の家からそう遠くない場所のようだ。引越しの理由は「家の都合」らしい。初対面でそれ以上踏み込むのも躊躇われたので、それはそれで話してもらうのを待つことにする。 昼休みに私の友達を紹介したりで、今日は久々に学校で新鮮な一日を過ごせたと思う。 帰り。家が近いということで、私と片桐さんは家路を共にした。小学校を通る時に、そこへ弟が通っていることと、毎朝ここまで一緒に登校していることを話す。帰りは違うのかと訊かれたので、弟は友達と遊んで帰るから帰宅時間がずれるのだと説明した。ふうんとひとりごちて、片桐さんは小学校をしげしげと眺めていた。 もうしばらく歩いていると、あの黒猫に出会った。よくよく考えれば、朝でない時間に会うのは初めてかもしれない。黒猫は甘えるように鳴いて、私たちへ近寄ってくる。 可愛い猫ね。片桐さんはそう言って、猫を撫でた。猫はうれしそうに目を細めて、片桐さんの手の甲を舐めた。 黒猫は飽きたのか、一声鳴いて走って行った。 「あの猫、なかなかいい匂いがしたわ」 片桐さんはそう言って、再び歩き出した。 近所の商店街を抜けたあたりが、私と片桐さんの分かれ道だった。私たちは明日の朝も一緒に登校する約束をして、さよならをした。 夜、リビングでテレビを見ていると、電話が鳴った。母は電話に出て、普段よりオクターブ高い声で挨拶をした後、私に電話を変わった。電話の相手は、担任の先生だった。片桐さんと仲良くしていたお礼と、明日からもよろしくと言って、先生は電話を終えた。なかなか面倒見の良い担任である。 私はふと片桐さんのことを思い出して、弟に猫の匂いについてたずねてみた。 「匂いなんてするかな?」 弟は首を傾げていた。 //////////////////////////////////////////// 予定より長くなりそうだから、ちょっと連載! |
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最近はどうにも創作意欲は沸くのですが、なかなかアイディアはボツってます。夏バテというやつでしょうか。違う気もするけど。
とりあえずこういうとき斎藍はどうするかというと、考えます。最近は「誰もが共感できるモノ」とは何かを考えています。 恋愛か恐怖かあるいは感動か。喜びなのか。とか、そんなの。なかなか答えが出ないのですよ、コレが。 学説的にはダーウィンの進化論が有力ですが、もしかしたらこの統一性の無さ、というのも、すでに人間の進化した一部なのかも、とか考えてみたり。 あ、バカらしさとか皆で共感できないかな……? |

